多施設共同研究

About

多施設共同研究とは

海外の治験や臨床研究、また、対象患者を決めた治験や臨床研究では日本の実臨床における実情やエビデンスはなかなか見えてきません。
そこで、当院では循環器疾患のリアルワールドエビデンスの構築を目的に、自施設、関連病院、さらには実地医科の先生方にご協力いただき、レジストリ研究を行っております。
これまでに、不整脈分野(心房細動)、虚血性心疾患分野、心不全分野、肺血栓塞栓症・深部静脈血栓症分野において多くの施設の先生方にご協力いただき、レジストリをまとめ、数多くの研究論文を国内、海外雑誌に投稿しております。

多施設共同研究

不整脈分野

不整脈チームでは、関連病院、クリニックの先生方、そして全国の先生方と協力して、多くの多機関共同研究を展開しております。

SAKURA AFレジストリ(SAKURA AF Registry)

SAKURA PCIレジストリ1(UMIN000027419)は、日本大学医学部附属板橋病院と関連病院の合計7施設にて、日本の冠動脈疾患(CAD)患者における冠動脈内イメージング手法と臨床転帰の関係を調査した多機関前向き研究です。
2015年4月から2018年12月に経皮的冠動脈形成術(PCI)を受けた患者(n=414)のうち、大学病院2施設で治療された患者は196人、地域病院5施設で治療された患者は218人で、追跡期間は中央値11.0か月でした。
主要評価項目は、全死亡、非致死性心筋梗塞、臨床的に必要とされた標的病変再血行再建、ステント血栓症、脳卒中、および大出血を含む「臨床的に重要なイベント(CRE)」としました。大学病院で治療を受けた患者は、糖尿病(50% vs. 38%、p = 0.015)や悪性腫瘍(12% vs. 6%、p = 0.015)の割合が高く、複数の冠動脈内イメージング手法の使用頻度も高い結果でした(21% vs. 0.5%、p < 0.001)。一方で、1年後のCRE発生率のカプランマイヤー分析では、大学病院と地域病院間で有意差は認めませんでした(8.8% vs. 7.3%、p=0.527、ログランク検定)。(図5)
本研究の結果から、リスクが比較的高い患者が大学病院で複数の冠動脈内イメージング手法を用いて治療されているにもかかわらず、大学病院と地域病院で治療されたCAD患者の有害臨床イベントは同程度であることが示唆されました。
以上のように、SAKURA PCIレジストリ1では、海外と比較し本邦の特徴である血管内イメージングを用いた適切なPCIが、リアルワールドで患者転帰に良い影響がある可能性を示唆しております(Murata N, et al. Heart Vessels. 2022 Jan;37(1):12-21. )。

さらにSAKURA AFレジストリは、これまでに20本のサブ解析を論文化しており、近年では順天堂大学のRAFFINEレジストリや大阪大学のDIRECTレジストリのデータと統合することで、新たな知見を創出しています。

図5: 臨床転機は、大学病院と関連施設で差は認めなかった。

その他の関連研究

AF Frontier Ablation Registry(UMIN000026849)では、全国24施設を対象に、2011年8月から2017年7月までに心房細動アブレーションが施行された患者3541例の術後抗凝固療法の実態と予後を後ろ向きに調査しました。中央値20.7ヵ月の観察期間で、1,836例(53.2%)に抗凝固療法がアブレーション後中断されておりました。同群は若年でCHA2DS2-VAScスコア低リスクであり、実際の脳卒中イベントや大出血イベントもそれぞれ1.5%、2.1%と低率であることを明らかにしました。多変量解析において、脳卒中イベントは抗凝固薬中断ではなく、登録時のCHA2DS2-VAScスコアに強く関連していました。以上から、抗凝固薬は医師の裁量で適切に脳卒中リスクにより中断されている実態が明らかになりました(Okumura Y, et al. Circ J. 2019 Nov 25;83(12):2418-2427. )。AF Frontier Ablation Registryは、金沢大学の加藤先生のHokuriku-Plus AF Registryとも共同しHFmr EF・HFpEF患者におけるアブレーション予後の効果的な影響を示した論文をはじめ、4つのサブ解析を行っております(Tsuda T, Kato T et al. Circ J. 2023 Jun 23;87(7):939-946. Usuda K, Kato T et al. Heart Vessels. 2022 Feb;37(2):327-336. Watanabe R et al. Circ J. 2022 Jan 25;86(2):233-242.Iso K, et al Heart Vessels. 2021 Apr;36(4):549-560. )。

さらに、REHEALTH AF study(UMIN000047023)では、全国55施設の80歳以上の心房細動患者を対象に、アブレーション施行の有無による臨床的イベントの予後を比較しており(BMJ Open. 2023 Feb 15;13(2):e068894. )、2025年の日本循環器学会でLate breaking cohort studiesに採択され、発表を予定しております。
また、Precise-Combo 90W/50W study(UMIN000050344)では、90W/4秒と50W設定のアブレーションの臨床的有用性を全国8施設・100例のデータをもとに検討し、同学会での発表を予定しています。
加えて、全国33施設で左室駆出率35%未満の心不全患者を対象にしたTransition-ICD/ WCD Japan study(UMIN000050180)では、WCDやICDの導入率や予後への影響を明らかにする研究を進めています。
不整脈領域におけるこれらの取り組みは、日本国内のエビデンス創出に大きく寄与しており、関連病院やクリニックを超えて、全国規模でその裾野を広げています。

虚血性心疾患分野

虚血性心疾患カテーテルチームでは、関連施設と協力して、自施設・関連施設の成績(図4)について調査し、リアルワールドエビデンスを構築している。現在までに、SAKURA PCIレジストリ1(2015年4月から2018年12月)、SAKURA PCIレジストリ2(2020年6月から2022年9月)を行っております。

図4: 日大関連施設

SAKURA PCIレジストリ 1 (SAKURA imaging PCI Registry)

SAKURA PCIレジストリ1(UMIN000027419)は、日本大学医学部附属板橋病院と関連病院の合計7施設にて、日本の冠動脈疾患(CAD)患者における冠動脈内イメージング手法と臨床転帰の関係を調査した多機関前向き研究です。
2015年4月から2018年12月に経皮的冠動脈形成術(PCI)を受けた患者(n=414)のうち、大学病院2施設で治療された患者は196人、地域病院5施設で治療された患者は218人で、追跡期間は中央値11.0か月でした。
主要評価項目は、全死亡、非致死性心筋梗塞、臨床的に必要とされた標的病変再血行再建、ステント血栓症、脳卒中、および大出血を含む「臨床的に重要なイベント(CRE)」としました。大学病院で治療を受けた患者は、糖尿病(50% vs. 38%、p = 0.015)や悪性腫瘍(12% vs. 6%、p = 0.015)の割合が高く、複数の冠動脈内イメージング手法の使用頻度も高い結果でした(21% vs. 0.5%、p<0.001)。一方で、1年後のCRE発生率のカプランマイヤー分析では、大学病院と地域病院間で有意差は認めませんでした(8.8% vs. 7.3%、p=0.527、ログランク検定)。(図5)
本研究の結果から、リスクが比較的高い患者が大学病院で複数の冠動脈内イメージング手法を用いて治療されているにもかかわらず、大学病院と地域病院で治療されたCAD患者の有害臨床イベントは同程度であることが示唆されました。
以上のように、SAKURA PCIレジストリ1では、海外と比較し本邦の特徴である血管内イメージングを用いた適切なPCIが、リアルワールドで患者転帰に良い影響がある可能性を示唆しております(Murata N, et al. Heart Vessels. 2022 Jan;37(1):12-21. )。

図5: 臨床転機は、大学病院と関連施設で差は認めなかった。

SAKURA PCIレジストリ2 (SAKURA PCI2 Antithrombotic registry)

2020年4月、日本循環器学会 (JCS)が日本版高出血リスク(J-HBR)の患者に対して抗血小板剤2剤併用療法期間の短縮(short DAPT)を推奨するガイドラインを改訂しました。しかし、その影響を検証したリアルワールドデータはまだない点に着目しSAKURA PCIレジストリ2での検証を行いました。
2020年6月から2022年9月に、上記7施設にてPCIを受けた患者を登録した(n=1136)。PCI後の患者背景および医師の裁量に基づき、予定DAPT期間を計画し、3ヶ月未満の場合をPlanned short DAPT群、3か月以上の場合をPlanned non-short DAPT群と定義し、患者背景とアウトカムを比較検討しました。主要エンドポイントはMACCE (総死亡、非致死性心筋梗塞、ステント血栓症、脳卒中)とBARC 3または5の出血 (BARC-3/5)としました。55.2%の患者がPlanned short DAPT群となり、J-HBRの頻度は両群で同等(68.3% vs. 66.6%、p=0.55)、実際のDAPT期間はPlanned short DAPT群で短かい結果でした(97日 vs. 229日、p<0.001)。Planned short DAPT群では年齢、女性、心房細動、Clinical frailty scale、抗凝固療法の内服の頻度が高く、一方でPlanned non-short DAPT群では、急性冠症候群、糖尿病、重度腎機能障害、末梢血管障害の既往、PCIの既往が多い結果でした。2群間で主要エンドポイントの発生頻度は同等でした(MACCE: 6.5% vs. 7.3%、p=0.68; BARC-3/5: 3.7% vs. 2.2%、p=0.14)。MACCEの独立した予測因子は、75歳以上、Clinical frailty scale 4点以上、およびヘモグロビン11mg/dL未満でした。75歳以上、重度の腎機能障害、ヘモグロビン11 mg/dL未満、および血小板数10万未満はBARC-3/5に関連していました。BARC 3/5を発生した患者に着目すると、41.2%がDAPTから抗血小板剤1剤への切り替え後に出血イベントを認めました。
以上のように、JCSガイドライン改訂直後に開始されたSAKURA PCIレジストリー2では、Planned short DAPTは55.2%の患者に実施され、Planned non-short DAPTと比較して塞栓リスク、出血リスクは異なるが、同等の塞栓イベント、出血イベントの発生頻度でした。これはJCSガイドラインに準じたPCI後の抗血栓療法を行うことで、出血リスク・塞栓リスクを考慮したテーラーメード医療を行うことで、患者転帰に良い影響がある可能性を示唆しています。(図6)(Arai R, et al. Heart Vessels. 2024 Dec 6. Doi: 10.1007/s00380-024-02493-4. Online ahead of print.)

図6: 臨床転機は、大学病院と関連施設で差は認めなかった。

以上のように、その時における診療トレンドを意識した最適な診療を心掛け、その自施設の成績をリアルワールドエビデンスとして調査報告することを引き続き行っていきます。
今後は、脂質降下療法に着目したSAKURA PCIレジストリ3を計画しております。

心不全分野

心不全チームでは、自施設の心不全の動向と治療成績を調査することを目的に、リアルワールドデータを基盤としたSAKURA HFレジストリ(UMIN000043852)を立ち上げました。
SAKURA HFレジストリは前向き観察研究として2018年より急性非代償性心不全(ADHF)で入院した患者を対象に全例登録を行っております。現在までに2,000例を超えるデータが蓄積されおり、これまでに複数の調査結果を報告しています。代表的な結果をご紹介します。

ADHFで入院した患者においてSGLT2阻害薬を早期(入院後6日以内)に導入することが、入院期間の短縮(22日から16.5日、p = 0.002)につながるという事が明らかになりました(図7)。この結果は、多変量解析により年齢、腎機能、NT-proBNP値、心不全の重症度といった関連する因子で調整した後も一貫して認められました(Intern Med 2003; 62: 3107-3117)。

さらに、SGLT2阻害薬全体の使用傾向と臨床効果を検討した結果、ADHF患者におけるSGLT2阻害薬の使用は、再入院および全死亡リスクを低下(p < 0.001)と関連することが示されました(図8)。サブグループ解析においても、左室駆出率(LVEF)に応じたHFrEF、HFmrEF、HFpEFのいずれにおいても同様の有益な効果が確認されました(ESC Heart Failure 2024; 11: 410–421)。

図7:SGLT2阻害薬の早期導入群(Group E)と晩期導入群(Group L)での入院期間の比較、図8:退院時にSGLT2阻害薬が処方されいたADHF症例は心不全再入院および全死亡が少なかった。LVEFのサブグループ解析においても、同様であった。

肺血栓塞栓症/深部静脈血栓症(PE/DVT)分野

当院では、関連施設と協力して、自施設・関連施設(図9)の成績についてPE/DVT診療の実際を調査したSAKURA PE/DVTREGISTRYを実施し、2024年3月の日本循環器学会学術集会にて報告した。

図9:日大関連施設

SAKURA PE/DVT REGISTRY

目的

肺血栓塞栓症(PE)と深部静脈血栓症(DVT)は一連の疾患であり、静脈血栓塞栓症(VTE)と総称されます。近年、VTE患者に直接経口抗凝固薬(DOAC)を使用するエビデンスが確立され、臨床的に広く使用されるようになりました。DOACは従来のヘパリンやワルファリンによる治療よりも簡便であるだけでなく、同等またはそれ以上の有効性と安全性を有することが報告されています。しかし、我が国のデータは不足しています。さらに、リバーロキサバン強化療法は3週間続くため出血が懸念されます。
そこで本研究では、DOACによる治療を受けたVTE患者の特徴を明らかにし、臨床イベントの発生率を評価し、肺動脈血栓の退縮に及ぼす影響を評価することを目的としました。

方法

本研究は多機関前向き観察コホート研究であるSAKURA PE/DVT REGISTRY(UMIN臨床試験レジストリ:UMIN000047671)を用いた解析です。参加施設は当院を含めた9施設にご協力いただきました(図9)。対象患者は、急性症候性/無症候性PE、DVT、またはその両方と診断され、VTEの治療と予防のためにDOACによる抗凝固療法を受けている患者としました。2021年7月から2022年12月にかけて、全体で198例の患者が登録されました。DOACの投与量および投与期間の選択は担当医の裁量に一任。すべての患者で診断時と回復期である治療開始から10〜14日後に造影CT検査が施行されました。肺動脈内血栓量は、診断時および回復期に得られた造影CT画像を、Ziostation 2 workstation(version 2.9.8, Ziosoft Inc., Tokyo, Japan)を用いて手作業でトレースすることにより定量化し、血栓退縮率を測定しました。血栓退縮率は(急性期の血栓量-回復期の血栓量)/急性期の血栓量×100で算出しました (図10)。主要評価項目は血栓退縮率、副次評価項目は追跡期間中に発生した臨床イベントとしました。臨床イベントには、症候性VTE、PE、DVTの再発または増悪、大出血、小出血、急性冠症候群、虚血性脳卒中、総死亡、がんに関連した死亡、複合的臨床イベントが含まれました。

結果

全部で175例のVTE 患者が解析対象となった。VTE患者に最も多く処方されたDOACはリバーロキサバン(n=111; 63.4%)であり、次いでアピキサバン(n=41; 23.4%)、エドキサバン(n=23; 13.1%)でした。リバーロキサバン群は3つのDOAC群の中で最も体重が重く、ヘモグロビンとNT-proBNPの値が最も高値でありました。活動性がんの有病率は3つのDOAC群の中でエドキサバン群が最も高値でした。急性期から回復期CT検査までの間隔の中央値は13日(四分位範囲、11―14日)であり、3つのDOAC間で有意差はありませんでした。肺動脈内血栓のCT解析が可能であったのは、急性期が144例、回復期が142例でした。急性期の肺動脈内血栓量は、リバーロキサバン群、アピキサバン群、エドキサバン群で有意差を認めました(6.7 [2.1-15.4] vs. 2.1 [0.7-5.1] vs. 1.7 [0.4-14.0]mm3;P<0.001)(図11)。一方で、血栓退縮率は3つのDOAC間で有意差がありませんでした(88.6 [76.0-99.5]% vs. 94.2 [73.9-100.0]% vs. 94.4 [70.0-100.0]%;P=0.38) (図11)。症候性VTEの再発または増悪は3つのDOAC間で有意差はありませんでしたが(Log-rankP=0.09)、大出血は3つのDOAC間で有意差があり(Log-rankP=0.048)、アピキサバン群が最も大出血の発生率が高頻度でした。95例がリバーロキサバン強化療法を受け、その内34例(35.8%)が早期に強化療法を終了し、その後維持用量に切り替えました。残りの61例(64.2%)は3週間強化療法を継続した後、維持療法に切り替えました。強化療法を早期に終了した群は標準治療群に比べ、体重およびBMIが低値でした。また、血栓が完全に消失した患者の割合は、強化療法を早期に終了した群で高い傾向がみられました。強化療法を早期に終了した群と標準治療群で、症候性VTEの再発および増悪、総死亡の発生率に有意差はありませんでした。

結論

日本のVTE診療において、医師は出血リスクと急性PEに対する強化療法の必要性に基づいてDOACを選択していますが、血栓消退率および症候性VTEの再発または増悪の発生率は3つのDOAC間で有意差はありませんでした。大出血はアピキサバン群でわずかに多かったが、これは活動性がん合併に起因するものと考えられました。リバーロキサバン強化療法を受けた患者の約1/3は、治療開始から2週間後の早期フォローアップCT検査で十分な血栓消退率を示したため強化療法を早期に終了したが、症候性VTEの再発および増悪の発生率は増加しませんでした。これらの所見から、リバーロキサバン強化療法を早期に終了することは、出血リスクの高い患者における将来のVTE治療における治療選択肢の一つになり得ると考えられました(Migita S, et al. J Atheroscler Thromb. 2024 Dec 4. doi: 10.5551/jat.65322. Online ahead of print.)。

図5: 臨床転機は、大学病院と関連施設で差は認めなかった。