目的
肺血栓塞栓症(PE)と深部静脈血栓症(DVT)は一連の疾患であり、静脈血栓塞栓症(VTE)と総称されます。近年、VTE患者に直接経口抗凝固薬(DOAC)を使用するエビデンスが確立され、臨床的に広く使用されるようになりました。DOACは従来のヘパリンやワルファリンによる治療よりも簡便であるだけでなく、同等またはそれ以上の有効性と安全性を有することが報告されています。しかし、我が国のデータは不足しています。さらに、リバーロキサバン強化療法は3週間続くため出血が懸念されます。
そこで本研究では、DOACによる治療を受けたVTE患者の特徴を明らかにし、臨床イベントの発生率を評価し、肺動脈血栓の退縮に及ぼす影響を評価することを目的としました。
方法
本研究は多機関前向き観察コホート研究であるSAKURA PE/DVT REGISTRY(UMIN臨床試験レジストリ:UMIN000047671)を用いた解析です。参加施設は当院を含めた9施設にご協力いただきました(図9)。対象患者は、急性症候性/無症候性PE、DVT、またはその両方と診断され、VTEの治療と予防のためにDOACによる抗凝固療法を受けている患者としました。2021年7月から2022年12月にかけて、全体で198例の患者が登録されました。DOACの投与量および投与期間の選択は担当医の裁量に一任。すべての患者で診断時と回復期である治療開始から10〜14日後に造影CT検査が施行されました。肺動脈内血栓量は、診断時および回復期に得られた造影CT画像を、Ziostation 2 workstation(version 2.9.8, Ziosoft Inc., Tokyo, Japan)を用いて手作業でトレースすることにより定量化し、血栓退縮率を測定しました。血栓退縮率は(急性期の血栓量-回復期の血栓量)/急性期の血栓量×100で算出しました (図10)。主要評価項目は血栓退縮率、副次評価項目は追跡期間中に発生した臨床イベントとしました。臨床イベントには、症候性VTE、PE、DVTの再発または増悪、大出血、小出血、急性冠症候群、虚血性脳卒中、総死亡、がんに関連した死亡、複合的臨床イベントが含まれました。
結果
全部で175例のVTE 患者が解析対象となった。VTE患者に最も多く処方されたDOACはリバーロキサバン(n=111; 63.4%)であり、次いでアピキサバン(n=41; 23.4%)、エドキサバン(n=23; 13.1%)でした。リバーロキサバン群は3つのDOAC群の中で最も体重が重く、ヘモグロビンとNT-proBNPの値が最も高値でありました。活動性がんの有病率は3つのDOAC群の中でエドキサバン群が最も高値でした。急性期から回復期CT検査までの間隔の中央値は13日(四分位範囲、11―14日)であり、3つのDOAC間で有意差はありませんでした。肺動脈内血栓のCT解析が可能であったのは、急性期が144例、回復期が142例でした。急性期の肺動脈内血栓量は、リバーロキサバン群、アピキサバン群、エドキサバン群で有意差を認めました(6.7 [2.1-15.4] vs. 2.1 [0.7-5.1] vs. 1.7 [0.4-14.0]mm3;P<0.001)(図11)。一方で、血栓退縮率は3つのDOAC間で有意差がありませんでした(88.6 [76.0-99.5]% vs. 94.2 [73.9-100.0]% vs. 94.4 [70.0-100.0]%;P=0.38) (図11)。症候性VTEの再発または増悪は3つのDOAC間で有意差はありませんでしたが(Log-rankP=0.09)、大出血は3つのDOAC間で有意差があり(Log-rankP=0.048)、アピキサバン群が最も大出血の発生率が高頻度でした。95例がリバーロキサバン強化療法を受け、その内34例(35.8%)が早期に強化療法を終了し、その後維持用量に切り替えました。残りの61例(64.2%)は3週間強化療法を継続した後、維持療法に切り替えました。強化療法を早期に終了した群は標準治療群に比べ、体重およびBMIが低値でした。また、血栓が完全に消失した患者の割合は、強化療法を早期に終了した群で高い傾向がみられました。強化療法を早期に終了した群と標準治療群で、症候性VTEの再発および増悪、総死亡の発生率に有意差はありませんでした。
結論
日本のVTE診療において、医師は出血リスクと急性PEに対する強化療法の必要性に基づいてDOACを選択していますが、血栓消退率および症候性VTEの再発または増悪の発生率は3つのDOAC間で有意差はありませんでした。大出血はアピキサバン群でわずかに多かったが、これは活動性がん合併に起因するものと考えられました。リバーロキサバン強化療法を受けた患者の約1/3は、治療開始から2週間後の早期フォローアップCT検査で十分な血栓消退率を示したため強化療法を早期に終了したが、症候性VTEの再発および増悪の発生率は増加しませんでした。これらの所見から、リバーロキサバン強化療法を早期に終了することは、出血リスクの高い患者における将来のVTE治療における治療選択肢の一つになり得ると考えられました(Migita S, et al. J Atheroscler Thromb. 2024 Dec 4. doi: 10.5551/jat.65322. Online ahead of print.)。