多施設共同研究

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多施設共同研究とは

海外の治験や臨床研究、また、対象患者を決めた治験や臨床研究では日本の実臨床における実情やエビデンスはなかなか見えてきません。
そこで、当院では循環器疾患のリアルワールドエビデンスの構築を目的に、自施設、関連病院、さらには実地医科の先生方にご協力いただき、レジストリ研究を行っております。
これまでに、不整脈分野(心房細動)、虚血性心疾患分野、心不全分野、肺血栓塞栓症・深部静脈血栓症分野において多くの施設の先生方にご協力いただき、レジストリをまとめ、数多くの研究論文を国内、海外雑誌に投稿しております。

多施設共同研究

不整脈分野

不整脈チームでは、関連病院、クリニックの先生方、そして全国の先生方と協力して、多くの多機関共同研究を展開しております。

PFA時代の心房細動治療を日本から発信する多施設共同研究

当科は、心房細動アブレーションおよびパルスフィールドアブレーション(PFA)研究において、国内多施設共同研究を主導する中核施設として、臨床現場から生まれる疑問を全国規模のエビデンス創出へつなげています。

1. PERSIST-PWI Trial(試験ID: jRCTs032250541)

持続性心房細動を対象に、FARAPULSEによる肺静脈隔離術単独と左房後壁隔離術追加の治療成績を比較する、日本初・最大規模の多施設共同ランダム化比較試験 PERSIST-PWI Trialを主導しています。
本研究は全国約60施設で実施され、PFA時代における後壁隔離の意義を明らかにすることを目的としています。

関連論文(Design paper)
Okumura Y, Tokuda M, Nagashima K, et al. PERSIST-PWI trial: Rationale and design of a multicenter randomized controlled trial comparing pulmonary vein isolation alone with pulmonary vein isolation plus posterior wall isolation using pulsed field ablation in patients with persistent atrial fibrillation. Heart Rhythm O2. 2026;7:1182-1189.

2. 心房細動に対するPFAと高周波アブレーション後の組織治癒過程を比較する多施設共同研究
TISSUE HEAL PFA Study(UMIN000057894)

当科では、6施設による多施設共同研究として、心房細動に対するパルスフィールドアブレーション(PFA)と従来の高周波アブレーション(RFA)後の組織治癒過程を比較する TISSUE HEAL PFA Study を実施しています。本研究では、RFA 26例、PFA 29例を対象に、アブレーション後の組織創傷治癒過程、とくに自律神経機能への影響の違いを検討しています。PFAとRFAの生体反応の相違を明らかにすることで、PFAの特性をより深く理解し、術後急性期から亜急性期管理における新たなエビデンス創出を目指しています。
本研究成果は、Heart Rhythm 2026にて発表し、PFAとRFAにおける術後組織治癒過程および自律神経機能への影響の相違について報告しました。

3. TPI-PFA Study (UMIN000059329)

全国27施設によるVARIPULSEを用いた前向き観察研究 TPI-PFA Study を実施しています。本研究では、TPIを活用した、より確実なPFA手技の確立を目指すとともに、術後頭部MRIで検出される silent cerebral events(SCE)の発生機序を明らかにし、PFAの有効性・安全性の確立と手技の標準化を目指しています。

4. 日本発のVARIPULSEによるPFA多施設共同研究

VARIPULSEを用いた国内10施設の多施設共同研究を展開し、その有効性・安全性、長期治療成績、再発予測因子を検証しています。さらに、再アブレーション症例の詳細な解析を通じて、肺静脈再伝導と Tissue Proximity Indication(TPI)、通電回数、カテーテル接触状態などとの関連を評価し、PFA後の再発メカニズムの解明を進めています。

主な関連論文
Sawada M, Sato H, Nagashima K, et al. First multicenter Japanese registry on tissue proximity-guided pulsed field ablation: Procedural safety and mid-term outcomes. Heart Rhythm O2. 2025;7:221-231. doi:10.1016/j.hroo.2025.11.014. PMID: 41732239.

5. その他のPFA研究

心臓MRIによる慢性期病変の可視化・定量評価、カテーテルと組織の接触状態を推定する新たな指標の開発、左房ストレイン解析によるPFA後の左房機能変化の評価などを行っています。
また、PFAが隣接する心筋組織に及ぼす影響とその可逆性についても検証し、画像解析、電気生理学的評価、心機能評価を組み合わせた多角的なアプローチから、PFAの病変形成と生体組織への影響の解明に取り組んでいます。

主な関連論文
Hirata S, Nagashima K, Watanabe R, et al. Workflow of the zero-fluoro pulsed field ablation.
J Arrhythm. 2024;40:1529-1532. doi:10.1002/joa3.13174. PMID: 39669927.
Masuda H, Nagashima K, Matsumoto N, et al. Lesion area, ablation time, fluoroscopic time, and short-term outcomes among 3 pulsed field ablation systems. Heart Rhythm. 2026;23:1517-1523. doi:10.1016/j.hrthm.2025.07.054. PMID: 40769447.
Saito Y, Nagashima K, Watanabe R, et al. Clinical importance of tissue proximity indication during pulsed field ablation for atrial fibrillation: Insights from initial experience.
Heart Rhythm. 2025;22:e51-e59. doi:10.1016/j.hrthm.2025.01.022. PMID: 39864478.
Hirata S, Nagashima K, Watanabe R, et al. Exploratory assessment of field-tag-based catheter-tissue contact and acute lesion surrogates during pulsed field ablation. Heart Rhythm O2. 2026;7:817-819. doi:10.1016/j.hroo.2026.02.003. PMID: 42038679.
Watanabe R, Nagashima K, Masuda H, et al. Contact Index-Guided Pulsed Field Ablation: A Two-Phase Validation of the Impedance Change Threshold to Prevent Acute Pulmonary Vein Gaps. J Arrhythm. 2026;42:e70333. doi:10.1002/joa3.70333. PMID: 41948225.

6. REHEALTH AF Study:
超高齢心房細動患者に対するアブレーション治療の有効性

80歳以上の非弁膜症性心房細動患者703例を対象とした全国47施設の前向き多施設共同研究 REHEALTH AF Study を実施しました。
本研究では、カテーテルアブレーションにより、症状やQOL、NT-proBNP値、左房径が改善するとともに、認知機能やフレイルの維持にも有益な効果が認められました。また、背景因子を調整した解析では、心血管イベントや死亡などを含む複合イベントのリスク低下も示され、適切に選択された超高齢患者におけるアブレーション治療の有用性が示唆されました。

主な関連論文
Hirata S, Okumura Y, Nagashima K, et al. Catheter Ablation Outcomes and Life Expectancy in Very Elderly Atrial Fibrillation Patients: The REHEALTH AF Study. JACC Clin Electrophysiol. 2026;12:307-321. doi:10.1016/j.jacep.2025.10.007. PMID: 41288543.

7. TRANSITION JAPAN ICD/WCD Study:
突然死一次予防の実態を明らかにする全国多施設共同研究(UMIN000050180)

当科では、植込み型除細動器(ICD)および着用型除細動器(WCD)の適応患者を対象とした全国多施設共同前向き観察研究 TRANSITION JAPAN ICD/WCD Study(UMIN000050180)を主導しています。
本研究では、全国31施設の約600例を対象に、ICD・WCDの導入状況と予後を検討し、デバイス治療が十分に普及していない日本の現状と、非導入患者における突然死・死亡リスクの高さを明らかにしました。
本研究成果は、第90回日本循環器学会学術集会(JCS 2026)のLate Breaking Cohort Studiesセッションで発表されました。

8. PRECISE-COMBO 90 W/50 W Study:
高周波アブレーションの最適化を目指した多施設共同研究

発作性心房細動患者101例を対象に、90 W/4秒の超高出力短時間通電とAblation Indexに基づく50 W通電を組み合わせた肺静脈隔離術の有効性と安全性を前向きに検証しました。本研究では、1年後の心房性不整脈非再発率は89.9%と良好な成績を示しました。一方、肺静脈carina部が急性期再伝導の好発部位であり、カテーテル接触状態やAblation Indexが治療成績に関連することが明らかとなり、より確実な肺静脈隔離術に向けた重要な知見が得られました。

主な関連論文
Saito Y, Watanabe R, Nagashima K, et al. Prospective Multicenter Registry to Investigate the Clinical Feasibility of Combination Workflow With 90 W/4 s and Ablation Index-Guided 50 W Ablation (PRECISE-COMBO 90 W/50 W Study). J Arrhythm. 2025;41:e70199. doi:10.1002/joa3.70199. PMID: 41019582.

9. 発作性上室頻拍の機序解明を目指した多施設共同研究

当科では、発作性上室頻拍の詳細な電気生理学的解析に基づき、稀少な頻拍機序に関する症例報告や多施設共同研究を継続的に発信しています。
現在、全国23施設から集積した稀少な nodoventricular pathway/nodofascicular pathway 症例を対象に、詳細な電気生理学的解析を行っています。
本研究では、頻拍機序の解明に加え、三次元マッピングを用いた副伝導路の局在診断法の確立を目指しています。

主な関連論文
Nagashima K, Maruyama M, Kaneko Y, et al. Systematic observation-based diagnosis of atrioventricular nodal reentrant tachycardia with a bystander concealed nodoventricular pathway. J Arrhythm. 2024;40:131-142. doi:10.1002/joa3.12976. PMID: 38333409.
Hirata S, Nagashima K, Watanabe R, et al. Pseudo-slow-fast atrioventricular nodal reentrant tachycardia: Is the fast pathway a criminal or innocent bystander? J Arrhythm. 2024;40:143-145. doi:10.1002/joa3.12955. PMID: 38333396.
Hirata S, Nagashima K, Kaneko Y, et al. Recurrent episodes of atrioventricular nodal reentrant tachycardia: Sites of ablation success, ablation endpoint, and primary culprits for recurrence.
J Arrhythm. 2024;40:552-559. doi:10.1002/joa3.13060. PMID: 38939776.
Watanabe R, Nagashima K, Wakamatsu Y, et al. The Pitfalls of Capture/Fusion Beats: Diagnostic Challenges in Wide QRS Complex Tachycardia. J Cardiovasc Electrophysiol. 2025;36:521-524. doi:10.1111/jce.16538. PMID: 39663836.
Kanai S, Nagashima K, Saito Y, et al. A narrow QRS tachycardia with conflicting findings: A current pitfall of diagnostic criteria? HeartRhythm Case Rep. 2025;11:899-902. doi:10.1016/j.hrcr.2025.06.017. PMID: 41333930.
Hirata S, Nagashima K, Watanabe R, et al. Precise Activation Within the Triangle of Koch: Insights from Ultra-High-Resolution Mapping and Cryoablation Terminating AVNRT.
J Cardiovasc Electrophysiol. 2026;37:527-538. doi:10.1111/jce.70258. PMID: 41536016.

10. 長時間ホルター心電図やAI心電図による心房細動発症予測

当科では、長時間ホルター心電図 「hitoe®ウェアラブル心電図測定システム」 を用いた全国多施設共同研究(11施設、1000例)を主導し、心房細動アブレーション後の再発検出率の評価や、再発リスク因子の同定に取り組んでいます。
また、AIを搭載した12誘導心電計 「CardiMax9 Ai(FCP-9900Ai)」 を用いて、洞調律時の心電図から心房細動の発症リスクを評価する研究も進めています。
ウェアラブル心電図とAI心電図を組み合わせることで、無症候性・未診断心房細動の早期発見を促進し、脳梗塞や心不全の予防につながる新たなスクリーニング法の確立を目指しています。

虚血性心疾患分野

虚血性心疾患カテーテルチームでは、関連施設と協力して、自施設・関連施設の成績(図4)について調査し、リアルワールドエビデンスを構築している。現在までに、SAKURA PCIレジストリ1(2015年4月から2018年12月)、SAKURA PCIレジストリ2(2020年6月から2022年9月)を行っております。

図4: 日大関連施設

SAKURA PCIレジストリ 1 (SAKURA imaging PCI Registry)

SAKURA PCIレジストリ1(UMIN000027419)は、日本大学医学部附属板橋病院と関連病院の合計7施設にて、日本の冠動脈疾患(CAD)患者における冠動脈内イメージング手法と臨床転帰の関係を調査した多機関前向き研究です。
2015年4月から2018年12月に経皮的冠動脈形成術(PCI)を受けた患者(n=414)のうち、大学病院2施設で治療された患者は196人、地域病院5施設で治療された患者は218人で、追跡期間は中央値11.0か月でした。
主要評価項目は、全死亡、非致死性心筋梗塞、臨床的に必要とされた標的病変再血行再建、ステント血栓症、脳卒中、および大出血を含む「臨床的に重要なイベント(CRE)」としました。大学病院で治療を受けた患者は、糖尿病(50% vs. 38%、p = 0.015)や悪性腫瘍(12% vs. 6%、p = 0.015)の割合が高く、複数の冠動脈内イメージング手法の使用頻度も高い結果でした(21% vs. 0.5%、p<0.001)。一方で、1年後のCRE発生率のカプランマイヤー分析では、大学病院と地域病院間で有意差は認めませんでした(8.8% vs. 7.3%、p=0.527、ログランク検定)。(図5)
本研究の結果から、リスクが比較的高い患者が大学病院で複数の冠動脈内イメージング手法を用いて治療されているにもかかわらず、大学病院と地域病院で治療されたCAD患者の有害臨床イベントは同程度であることが示唆されました。
以上のように、SAKURA PCIレジストリ1では、海外と比較し本邦の特徴である血管内イメージングを用いた適切なPCIが、リアルワールドで患者転帰に良い影響がある可能性を示唆しております(Murata N, et al. Heart Vessels. 2022 Jan;37(1):12-21. )。

図5: 臨床転機は、大学病院と関連施設で差は認めなかった。

SAKURA PCIレジストリ2 (SAKURA PCI2 Antithrombotic registry)

2020年4月、日本循環器学会 (JCS)が日本版高出血リスク(J-HBR)の患者に対して抗血小板剤2剤併用療法期間の短縮(short DAPT)を推奨するガイドラインを改訂しました。しかし、その影響を検証したリアルワールドデータはまだない点に着目しSAKURA PCIレジストリ2での検証を行いました。
2020年6月から2022年9月に、上記7施設にてPCIを受けた患者を登録した(n=1136)。PCI後の患者背景および医師の裁量に基づき、予定DAPT期間を計画し、3ヶ月未満の場合をPlanned short DAPT群、3か月以上の場合をPlanned non-short DAPT群と定義し、患者背景とアウトカムを比較検討しました。主要エンドポイントはMACCE (総死亡、非致死性心筋梗塞、ステント血栓症、脳卒中)とBARC 3または5の出血 (BARC-3/5)としました。55.2%の患者がPlanned short DAPT群となり、J-HBRの頻度は両群で同等(68.3% vs. 66.6%、p=0.55)、実際のDAPT期間はPlanned short DAPT群で短かい結果でした(97日 vs. 229日、p<0.001)。Planned short DAPT群では年齢、女性、心房細動、Clinical frailty scale、抗凝固療法の内服の頻度が高く、一方でPlanned non-short DAPT群では、急性冠症候群、糖尿病、重度腎機能障害、末梢血管障害の既往、PCIの既往が多い結果でした。2群間で主要エンドポイントの発生頻度は同等でした(MACCE: 6.5% vs. 7.3%、p=0.68; BARC-3/5: 3.7% vs. 2.2%、p=0.14)。MACCEの独立した予測因子は、75歳以上、Clinical frailty scale 4点以上、およびヘモグロビン11mg/dL未満でした。75歳以上、重度の腎機能障害、ヘモグロビン11 mg/dL未満、および血小板数10万未満はBARC-3/5に関連していました。BARC 3/5を発生した患者に着目すると、41.2%がDAPTから抗血小板剤1剤への切り替え後に出血イベントを認めました。
以上のように、JCSガイドライン改訂直後に開始されたSAKURA PCIレジストリー2では、Planned short DAPTは55.2%の患者に実施され、Planned non-short DAPTと比較して塞栓リスク、出血リスクは異なるが、同等の塞栓イベント、出血イベントの発生頻度でした。これはJCSガイドラインに準じたPCI後の抗血栓療法を行うことで、出血リスク・塞栓リスクを考慮したテーラーメード医療を行うことで、患者転帰に良い影響がある可能性を示唆しています。(図6)(Arai R, et al. Heart Vessels. 2024 Dec 6. Doi: 10.1007/s00380-024-02493-4. Online ahead of print.)

図6: 臨床転機は、大学病院と関連施設で差は認めなかった。

以上のように、その時における診療トレンドを意識した最適な診療を心掛け、その自施設の成績をリアルワールドエビデンスとして調査報告することを引き続き行っていきます。
今後は、脂質降下療法に着目したSAKURA PCIレジストリ3を計画しております。

心不全分野

心不全チームでは、自施設の心不全の動向と治療成績を調査することを目的に、リアルワールドデータを基盤としたSAKURA HFレジストリ(UMIN000043852)を立ち上げました。
SAKURA HFレジストリは前向き観察研究として2018年より急性非代償性心不全(ADHF)で入院した患者を対象に全例登録を行っております。現在までに2,000例を超えるデータが蓄積されおり、これまでに複数の調査結果を報告しています。代表的な結果をご紹介します。

ADHFで入院した患者においてSGLT2阻害薬を早期(入院後6日以内)に導入することが、入院期間の短縮(22日から16.5日、p = 0.002)につながるという事が明らかになりました(図7)。この結果は、多変量解析により年齢、腎機能、NT-proBNP値、心不全の重症度といった関連する因子で調整した後も一貫して認められました(Intern Med 2003; 62: 3107-3117)。

さらに、SGLT2阻害薬全体の使用傾向と臨床効果を検討した結果、ADHF患者におけるSGLT2阻害薬の使用は、再入院および全死亡リスクを低下(p < 0.001)と関連することが示されました(図8)。サブグループ解析においても、左室駆出率(LVEF)に応じたHFrEF、HFmrEF、HFpEFのいずれにおいても同様の有益な効果が確認されました(ESC Heart Failure 2024; 11: 410–421)。

図7:SGLT2阻害薬の早期導入群(Group E)と晩期導入群(Group L)での入院期間の比較、図8:退院時にSGLT2阻害薬が処方されいたADHF症例は心不全再入院および全死亡が少なかった。LVEFのサブグループ解析においても、同様であった。

肺血栓塞栓症/深部静脈血栓症(PE/DVT)分野

当院では、関連施設と協力して、自施設・関連施設(図9)の成績についてPE/DVT診療の実際を調査したSAKURA PE/DVTREGISTRYを実施し、2024年3月の日本循環器学会学術集会にて報告した。

図9:日大関連施設

SAKURA PE/DVT REGISTRY

目的

肺血栓塞栓症(PE)と深部静脈血栓症(DVT)は一連の疾患であり、静脈血栓塞栓症(VTE)と総称されます。近年、VTE患者に直接経口抗凝固薬(DOAC)を使用するエビデンスが確立され、臨床的に広く使用されるようになりました。DOACは従来のヘパリンやワルファリンによる治療よりも簡便であるだけでなく、同等またはそれ以上の有効性と安全性を有することが報告されています。しかし、我が国のデータは不足しています。さらに、リバーロキサバン強化療法は3週間続くため出血が懸念されます。
そこで本研究では、DOACによる治療を受けたVTE患者の特徴を明らかにし、臨床イベントの発生率を評価し、肺動脈血栓の退縮に及ぼす影響を評価することを目的としました。

方法

本研究は多機関前向き観察コホート研究であるSAKURA PE/DVT REGISTRY(UMIN臨床試験レジストリ:UMIN000047671)を用いた解析です。参加施設は当院を含めた9施設にご協力いただきました(図9)。対象患者は、急性症候性/無症候性PE、DVT、またはその両方と診断され、VTEの治療と予防のためにDOACによる抗凝固療法を受けている患者としました。2021年7月から2022年12月にかけて、全体で198例の患者が登録されました。DOACの投与量および投与期間の選択は担当医の裁量に一任。すべての患者で診断時と回復期である治療開始から10〜14日後に造影CT検査が施行されました。肺動脈内血栓量は、診断時および回復期に得られた造影CT画像を、Ziostation 2 workstation(version 2.9.8, Ziosoft Inc., Tokyo, Japan)を用いて手作業でトレースすることにより定量化し、血栓退縮率を測定しました。血栓退縮率は(急性期の血栓量-回復期の血栓量)/急性期の血栓量×100で算出しました (図10)。主要評価項目は血栓退縮率、副次評価項目は追跡期間中に発生した臨床イベントとしました。臨床イベントには、症候性VTE、PE、DVTの再発または増悪、大出血、小出血、急性冠症候群、虚血性脳卒中、総死亡、がんに関連した死亡、複合的臨床イベントが含まれました。

結果

全部で175例のVTE 患者が解析対象となった。VTE患者に最も多く処方されたDOACはリバーロキサバン(n=111; 63.4%)であり、次いでアピキサバン(n=41; 23.4%)、エドキサバン(n=23; 13.1%)でした。リバーロキサバン群は3つのDOAC群の中で最も体重が重く、ヘモグロビンとNT-proBNPの値が最も高値でありました。活動性がんの有病率は3つのDOAC群の中でエドキサバン群が最も高値でした。急性期から回復期CT検査までの間隔の中央値は13日(四分位範囲、11―14日)であり、3つのDOAC間で有意差はありませんでした。肺動脈内血栓のCT解析が可能であったのは、急性期が144例、回復期が142例でした。急性期の肺動脈内血栓量は、リバーロキサバン群、アピキサバン群、エドキサバン群で有意差を認めました(6.7 [2.1-15.4] vs. 2.1 [0.7-5.1] vs. 1.7 [0.4-14.0]mm3;P<0.001)(図11)。一方で、血栓退縮率は3つのDOAC間で有意差がありませんでした(88.6 [76.0-99.5]% vs. 94.2 [73.9-100.0]% vs. 94.4 [70.0-100.0]%;P=0.38) (図11)。症候性VTEの再発または増悪は3つのDOAC間で有意差はありませんでしたが(Log-rankP=0.09)、大出血は3つのDOAC間で有意差があり(Log-rankP=0.048)、アピキサバン群が最も大出血の発生率が高頻度でした。95例がリバーロキサバン強化療法を受け、その内34例(35.8%)が早期に強化療法を終了し、その後維持用量に切り替えました。残りの61例(64.2%)は3週間強化療法を継続した後、維持療法に切り替えました。強化療法を早期に終了した群は標準治療群に比べ、体重およびBMIが低値でした。また、血栓が完全に消失した患者の割合は、強化療法を早期に終了した群で高い傾向がみられました。強化療法を早期に終了した群と標準治療群で、症候性VTEの再発および増悪、総死亡の発生率に有意差はありませんでした。

結論

日本のVTE診療において、医師は出血リスクと急性PEに対する強化療法の必要性に基づいてDOACを選択していますが、血栓消退率および症候性VTEの再発または増悪の発生率は3つのDOAC間で有意差はありませんでした。大出血はアピキサバン群でわずかに多かったが、これは活動性がん合併に起因するものと考えられました。リバーロキサバン強化療法を受けた患者の約1/3は、治療開始から2週間後の早期フォローアップCT検査で十分な血栓消退率を示したため強化療法を早期に終了したが、症候性VTEの再発および増悪の発生率は増加しませんでした。これらの所見から、リバーロキサバン強化療法を早期に終了することは、出血リスクの高い患者における将来のVTE治療における治療選択肢の一つになり得ると考えられました(Migita S, et al. J Atheroscler Thromb. 2024 Dec 4. doi: 10.5551/jat.65322. Online ahead of print.)。

図5: 臨床転機は、大学病院と関連施設で差は認めなかった。